歯科領域の疾患が全身に影響を及ぼすことは、すでに20世紀初頭に病巣感染説(focal infection)として提唱されてはいましたが、まだ科学的根拠・証拠は不十分でした。しかし、近年では、全身疾患が歯周病の発症・進行に影響を及ぼすリスク因子となることが指摘されて、歯周病が全身の健康に害を及ぼしている可能性も疫学的に示唆されるようになってきました。それでは、どういった機序で歯周病は全身に悪影響を及ぼすのでしょうか? ヒトの28本の歯が歯周病に侵され、すべての歯のまわりに深さ5ミリの歯周ポケットが形成されたと仮定すると、ポケット上皮の面積は約72平方cmにもなります。これは、大人の手のひらの面積とほぼ同じなんです。つまり、これだけの面積の潰瘍(ただれ)が歯ぐきの中にあるということなんです。こんな大きな範囲で生体と細菌がせめぎ合いをしているということなんです。また、歯周病は慢性炎症性疾患ですから、炎症歯周組織においては様々な炎症関連物質が持続的に産生されています。その影響が歯周組織から全身に波及すると考えると、歯周病が全身に何らかの影響を及ぼすことが簡単に想像できると思います。したがって、いろいろな病気を起こす原因疾患となりえる可能性があると考えられます。
■歯周病が全身の健康に悪影響を及ぼす例■
@心臓血管疾患
近年、疫学的研究により心臓血管疾患のリスク因子の一つとして、歯周病が注目されています。これまで研究により明かになっていることは、歯周病のあるヒトは、ないヒトに比べて、
@心臓病を、1.5〜2.8倍発症しやすい。
Aアテローム性動脈硬化症が、歯周炎と関連する。
ということが示されています。歯周病が心臓血管疾患に影響を与えるメカニズムとしては、炎症歯周組織で産生されるIL-1、IL-6、TFN-α等の炎症性サイトカインが、血流にのって心臓や血管に移行し、血管内皮細胞やアテローム中のマクロファージを活性化することにより、心臓血管系の梗塞を引き起こすのではないかと考えられています。また、実際アテローム部位からP.gingivalis等の歯周病原生細菌のDNAが検出されています。
A糖尿病
糖尿病は歯周病のリスク因子です。逆に、近年では歯周病が糖尿病のリスク因子である事を示唆する報告もなされています。これまでに、糖尿病の程度の指標であるヘモグロビンA1c(HbA1c)や血糖値が、歯周病治療により低下したという報告や歯周病にかかっている糖尿病患者をモニターした結果、糖尿病の合併症である心筋梗塞、脳梗塞、高血圧などが重症の歯周病患者ほど多く発症したとの報告がなされています。歯周病が糖尿病に影響を与えるメカニズムとして、TEN-αと呼ばれる炎症性サイトカインの影響が疑われています。炎症性歯周組織から産生されるTFN-αが血流にのって細胞へ移行し、骨格筋細胞や脂肪細胞による糖の取り込みが阻害される、いわゆるインスリン抵抗性が悪化することにより糖尿病が悪化するのではないかと考えられています。
B低体重児出産
近年、歯周病にかかっている妊婦は、早産(妊娠37週未満)や低体重児(2,500g未満)を出産するリスクが高いことが報告されています。低体重児出産のリスクは約7倍も高いことが示されています。歯周病が低体重児出産のリスクを増大させるメカニズムの一つは、歯周組織の炎症に伴って産生される炎症性物質がなんらかの機序で、子宮の収縮を誘発し早産や低体重児出産を引き起こすのではないかと推測されています。
●まとめ●
これらの結果から、歯周病を無治療で放置することは百害あって一利なしということがおわかりいただけたでしょうか。このWebサイトでは、歯周病についての情報をどんどん発信していきたいと思います。




