歯周医学とは「歯周病の予防や治療に科学的根拠をもって行うことと、歯周病が全身へどのような関わりをもつか、例えば動脈硬化・心臓病、骨粗鬆症、肺炎、喫煙、糖尿病、肥満・高脂血症、低体重児・早産などとの関連、さらにこのような全身疾患が歯周病にどのような影響を与えているかを研究する分野」と定義されている。

歯周病は恐ろしい病気

歯周病細菌や炎症性サイトカインの産生物が、血行を介して血管壁や気管支などに定着、組織を破壊し、全身組織を傷害することは口腔疾患にとどまらず全身の健康を損なう意味で大きな問題を提起している。

歯周病は恐ろしい病気であるが自助努力で発症の進行を阻止し予防することができ、さらに口腔のみならず全身の健康につながることを説明する責任が、われわれ歯科医師にとって急務な仕事と思われる。

歯肉溝上皮は、外部からの病原体の侵入を阻止しているが、炎症による組織破壊で上皮の潰瘍形成が起こると歯肉縁下プラーク細菌が歯肉組織内に侵入することが可能になってくる。歯肉内にはいった細菌は末梢血管から静脈を経由し全身に運ばれる。これらの菌が口腔以外の部位に行き着き増殖した場合そこで病変を起こす可能性がある。さらに菌が移行しなくても菌の病原因子のような成分が血流を介して頻繁に他の組織に作用しても病変が起こる可能性がある。

もう一つの可能性としては、口腔細菌に対する生体防御反応(免疫応答)が関与して疾患が起こってくることが考えられる。

生体は病原体に対しそれを排除し体を守るシステム(免疫)を持っている(図1)。

これは大きく自然免疫と獲得免疫の二つに別れている。自然免疫は侵入してきた病原体を非

特異的に攻撃するシステムで好中球やNK 細胞がその役割を担っている。獲得免疫ではマクロファージが抗原を貪食し、それを、ヘルパーT 細胞に提示するとヘルパーT 細胞がB 細胞を刺激して抗体を作らせるとともにキラーT 細胞による細胞の破壊を促進する。このシステムには記憶作用があり、一度侵入した病原体に対して2度目には速やかに反応する。このシステムは病原体の排除には有効だが、その作用とともに起こる自分を守るための炎症によって自分に都合が悪い状態が起こることがある。アレルギーはその代表的なものである。

つまり菌を攻撃しようとした結果、自分の組織に傷害を与えてしまう。さらに免疫担当細胞のコミュニケーションのために働くサイトカインが病原体を排除するプロセスでも産生されている。このサイトカインが血流を介し動脈硬化症のみならず糖尿病、低体重児出産などの病因に重要な役割を果たすと考えられている。

口腔細菌が関わる心血管系疾患

1)細菌性心内膜炎

以前から口腔細菌との関連が認められ、口腔細菌との関連が明らかにあると考えられている疾患は細菌性心内膜炎である。血液が心臓の狭い穴を高流速、高圧差で通過するとその時血液の渦流が生ずる。その渦流によって心内膜や弁膜の内皮面に血小板とフィブリンからなる血栓が形成され、これに血液中に侵入した細菌が付着して菌が増殖し、ついには弁破壊に進展する。

とくに人工弁をいれている人の心臓の中では血流がスムースに流れない部分ができやすく心内膜炎になるリスクが高くなっている。口腔細菌は一過性菌血症として血流中に

図1 免疫のメカニズム

― 3生体は病原体に対しそれを排除し体を守るシステム(免疫)を持っている(図1)。

これは大きく自然免疫と獲得免疫の二つに別れている。自然免疫は侵入してきた病原体を非特異的に攻撃するシステムで好中球やNK 細胞がその役割を担っている。獲得免疫ではマクロファージが抗原を貪食し、それを、ヘルパーT 細胞に提示するとヘルパーT 細胞がB 細胞を刺激して抗体を作らせるとともにキラーT 細胞による細胞の破壊を促進する。

このシステムには記憶作用があり、一度侵入した病原体に対して2度目には速やかに反応する。このシステムは病原体の排除には有効だが、その作用とともに起こる自分を守るための炎症によって自分に都合が悪い状態が起こることがある。アレルギーはその代表的なものである。

つまり菌を攻撃しようとした結果、自分の組織に傷害を与えてしまう。さらに免疫担当細胞のコミュニケーションのために働くサイトカインが病原体を排除するプロセスでも産生されている。このサイトカインが血流を介し動脈硬化症のみならず糖尿病、低体重児出産などの病因に重要な役割を果たすと考えられている。

口腔細菌が関わる心血管系疾患

口腔細菌の粥状硬化症との関わりはP. ginigvalisを中心にその可能性が示されている。P. gingivalisは、血管内皮細胞に作用しサイトカインであるMCP-1産生を誘導しマクロファージを呼び寄せるとともに血管壁に接着分子であるVCAM-1を発現させ血中のマクロファージの血管壁への侵入を促すことが示されている7)。

Qi らは、P. gingivalis 菌体及び内毒素がマクロファージをfoam cell に誘導することができること、さらには、P. gingivalis がfibrous cap を溶解する能力があることを示している8,9)。さらにP. gingivalis は、血小板を凝集させて血栓を形成する作用があることが知られている10)。これらの知見はP. gingivalis が血管壁に入ることはアテローム性動脈硬化症形成に関わる反応を誘導する能力を持つことを示している。